東北医科薬科大学 糖尿病代謝内科

研究紹介

抄読会
2024年度
2024年11月5日

A Glycemic Threshold Above Which the Improvement of β-Cell Function and Glycemia in Response to Insulin Therapy Is Amplified in Early Type 2 Diabetes: The Reversal of Glucotoxicity.
Retnakaran R, et al.
Diabetes Care 2024 Nov 1;47(11):2017-2023 (PMID: 39302842)

(教授コメント)
早期の2型糖尿病患者(発症から約1.8年)108名を対象に、3週間にわたって短期の集中的インスリン療法(グラルギンとリスプロ)を実施し、治療前後に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行ってβ細胞機能やインスリン感受性などを評価したカナダからの研究です。短期の集中的インスリン療法はβ細胞機能の回復や血糖値の改善をもたらしましたが、治療前の空腹時血糖値が9.3mmol/Lを超えるとβ細胞機能の改善や血糖値の改善が非線形的に増強されることがわかりました。空腹時血糖9.3mmol/Lは約170mg/dLに相当しますが、この数値に改善程度の明らかな変曲点があったことは新たな発見でした。短期の集中的インスリン療法によるブドウ糖毒性の解除に関する機序がより明らかになり、新しい糖尿病治療につながるきっかけになれば良いですね。


2024年10月1日

Tirzepatide for Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis.
Loomba R, et al.
N Engl J Med Jul 25;NEJMoa2401943 (PMID: 38856224)

(教授コメント)
代謝障害関連脂肪肝炎(MASH)は肝関連合併症および死亡と関連する進行性肝疾患です。本試験(SYNERGY-NASH)では、肝生検で診断された肝線維化が中等度または高度のMASHに対するGIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチドの有効性と安全性を明らかにしました。参加者はチルゼパチド(5 mg,10 mg,15 mg のいずれか)を週 1 回52 週間皮下投与する群とプラセボを投与する群に無作為に割り付けられました。主要評価項目であるMASH 改善率(resolution)はプラセボ群10%に対して、チルゼパチド 5mg群44%、10mg群56%、15mg群62%とすべてのチルゼパチド群で有意に良い結果でした。副次的評価項目である肝線維化についても、プラセボ群に対して、すべてのチルゼパチド群で有意に良い結果でした。これらの結果は代謝疾患を扱う内科医にとっても朗報です。


2024年9月3日

Combination SGLT2 Inhibitor and Glucagon Receptor Antagonist Therapy in Type
1 Diabetes: A Randomized Clinical Trial.
Boeder SC, et al.
Diabetes Care 2024 May 22:dc240212 (PMID: 38776437)

(教授コメント)
1 型糖尿病患者におけるインスリン治療にSGLT2阻害薬とグルカゴン受容体拮抗薬を併用する意義についての報告です。試験はランダム化二重盲検プラセボ対照のクロスオーバー法で行われました。「ベースライン」と「SGLT2阻害薬だけを追加」と「SGLT2阻害薬+グルカゴン受容体拮抗薬追加」の3群で比較されました。グルカゴン受容体拮抗薬はボラギデマブ (70 mg/週) が使用されました。CGMで評価された血糖指標は「SGLT2阻害薬+グルカゴン受容体拮抗薬追加」で良質な血糖であり、インスリン必要量も少ない治療が可能でした。また、インスリン治療を中断してケトン体を誘発する試験(insulin withdrawal test)では「SGLT2阻害薬+グルカゴン受容体拮抗薬追加」でケトン体増加が抑えられており、さらに患者の治療受容性と満足度が向上していました。

1 型糖尿病患者では正常血糖ケトアシドーシスなどのリスクからSGLT2 阻害薬の使用を躊躇する場合があります。グルカゴン受容体拮抗薬は1型糖尿病患者さんにもSGLT2阻害薬の恩恵(心・腎保護作用)を届けやすくなる可能性があります。


2024年8月6日

Maternal birth weight as an indicator of early and late gestational diabetes mellitus: The Japan Environment and Children's Study.
Tagami K, et al.
J Diabetes Investig 2024 Jun;15(6):751-761 (PMID: 38391358)

(教授コメント)
69318人の日本人妊婦の出生コホートを使って、母親の出生時体重と早期および後期の妊娠糖尿病(GDM)との関連を明らかにしました。母親の出生体重3000-3499gを基準としたとき2500g未満および2500~2999gであった母親の妊娠(早期)糖尿病発症リスクは、1.35倍と1.34倍であった。妊娠(後期)糖尿病発症リスクは1.66倍と1.22倍であった。日本における低出生体重児の出生割合は近年増加しており、将来の妊娠糖尿病発症に注意が必要である。


2024年7月2日

Active vitamin D treatment in the prevention of sarcopenia in adults with prediabetes (DPVD ancillary study): a randomised controlled trial
Kawahara T, et al.
Lancet Healthy Longev 2024 Apr;5(4):e255-e263. (PMID: 38437855)

(教授コメント)
いままでに、血清ビタミンD濃度とサルコペニア発症との間に逆相関があることは疫学調査で分かっていましたが、ビタミンD投与による治療がサルコペニアの発症を予防するかどうかは不明でした。この研究では活性型ビタミンD(エルデカルシトール[0.75μg/日])による治療が、糖尿病予備群の成人におけるサルコペニアの発症を抑制できることを明らかにしました。有害事象の発生率は両群間で有意差がありませんでした。エルデカルシトールは日本と中国では骨粗鬆症の治療薬として承認されていますが、本研究では筋量および筋力を増加させることによりサルコペニアの発症を予防し、転倒リスクを大幅に減少させる可能性があることがわかりました。高齢者糖尿病ではサルコペニアに留意した診療が求められる昨今、参考になる論文でした。


2024年6月11日

Internet of things-based approach for glycemic control in people with type 2 diabetes: A randomized controlled trial.
Bouuchi R, et al.
J Diabetes Investig 2024 Online ahead of print (PMID: 38712947)

(教授コメント)
PRISM-J研究は2型糖尿病患者を対象としてIoT (internet of things) を活用したアプローチが長期にわたる血糖コントロールに有用であるかどうかを調べた研究です。1159人の2型糖尿病を有する成人を無作為にIoTベースのアプローチ群 (ITG) 群とコントロール群 (CTG) に割り付け、ITG群は体重、血圧、身体活動の概要と食事と運動に関する行動変化を促すフィードバックメッセージがIoT自動化システムで提供されました。主要評価項目は52週間にわたるHbA1cの変化でしたが、群間に有意差を認めませんでした。しかし、IoTを毎日活用していた患者に限ったPer Protocol解析ではHbA1cの低下が認められたことから、IoTに親和性のある患者さんには有用なアプローチだと思います。今回の研究では血糖情報を収集していないIoTシステムでしたが、今後、血糖情報が加わったIoTシステムではどのような結果がでるのか楽しみです。


2024年5月7日

Short-term recovery of insulin secretion in response to a meal is associated with future glycemic control in type 2 diabetes patients.
Enkaku A, et al.
.J Diabetes Investig 2024 Apr;15(4):437-448. (PMID: 38151917)

(教授コメント)
富山大学病院に血糖コントロール目的で入院した2型糖尿病患者を対象とした臨床研究です。入院食を摂食後に上昇する血中Cペプチドの変化をインスリン分泌指標として3つ(index A, B, C)提唱し、入院時と比べて退院時で増加したそれらの指標は、将来の良好な血糖コントロール維持を予見しうる可能性を述べています。入院という短期間におけるインスリン分泌能の回復の程度を指標とした研究は今までになく、われわれの日常診療に応用できる有益な論文でした。